
ゲーランダ・サンヒターは17世紀後半に成立したハタヨガの古典教典で、聖者ゲーランダが弟子チャーンダ・カーパーリに教えを説く対話形式で書かれています。この教典は「ハタヨガの百科事典」とも呼ばれ、現代ヨガの直接的なルーツとなっている最も重要な聖典の一つです。
ハタヨガプラディーピカーよりも後に成立したため、より多くのアーサナやハタヨガの技法が記載されており、現代ヨガの父と呼ばれるクリシュナマチャリア氏の著作にも頻繁に引用されています。この教典に記されているすべてのテクニックは、プラーナ(生命エネルギー)をコントロールするためのものとして体系化されています。
ゲーランダ・サンヒターは7章に分かれており、サプターンガ・ヨーガ(7段階のヨーガ)として知られています。各段階は以下のように構成されています:
これらの段階は、最終的に「二度と再び生まれ変わることなく永遠の存在と一つになる」という古代ヨガの目的を達成するために体系化されています。
現代のヨガスタジオで行われているヨガと、ゲーランダ・サンヒターに記されたハタヨガには大きな違いがあります。この教典に記載されているヨガテクニックは、現在知られているヨガとは随分と異なるものです。
その理由は、この経典の目的が現代ヨガとは根本的に違うからです。現代ヨガが健康やリラックス効果を重視するのに対し、ゲーランダ・サンヒターのヨガは「肉体意識を超越して潜在的なパワーを目覚めさせる」ことを目的としています。
例えば、現代ヨガでも行われているカパラバティ呼吸法でさえ、この教典には3種類の異なる実践方法が記されており、より深いプラーナの操作を可能にする技術として伝承されています。
ゲーランダ・サンヒターの第5章では、8種類のクンバカ(息止め)技法が詳細に説明されており、これらはすべてプラーナをコントロールするための高度な呼吸法です。現代ではほとんど実践されることがなくなったこれらの技法は、5000年にわたるヨガの伝統の集大成として位置づけられています。
第6章のディヤーナ(瞑想)では、チャクラを整える方法や、ナディ(脈管)を通したエネルギーの流れを調整する技法が記されています。これらの実践により、修行者は段階的に意識の変容を経験し、最終的にサマーディ(三昧)の境地に到達することが可能になります。
また、この教典には適切な食事法(ヨガにふさわしいダイエット)や修行に最適な季節についても言及されており、ヨガ修行を包括的にサポートする智慧が含まれています。
現在、ゲーランダ・サンヒターを原典に忠実に学ぶ機会は限られていますが、その価値は計り知れません。この教典は古代サンスクリット語で「完全なる言葉」として記されており、現代の翻訳だけでは理解しきれない深い意味が込められています。
現代のヨガ界においても、雑多な教えが混じり込み渾沌とした状況は17世紀当時と似ている部分があります。だからこそ、「迷ったら原点(原典)に立ち返る」という姿勢で、この教典から真のハタヨガを学ぶことが重要です。
特に、失われつつあるプラーナ操作の技法を理解することで、現代のヨガ実践者はより深い次元でのヨガ体験を得ることができるでしょう。ゲーランダ・サンヒターは単なる歴史的文献ではなく、現代でも実践可能な生きた智慧の宝庫として、これからのヨガ修行者にとって不可欠な指針となり続けています。