
ヨガのルーツは1万年以上前の「タントラ」に遡ります。タントラは宇宙と個人のエネルギーを調和させる哲学体系であり、瞑想や呼吸法、儀式を通じて精神的成長を目指します。
現代ヨガの多くの人が実践しているハタヨガは、タントラの考え方を深く取り入れています。タントラの考えは、いかに人間らしさと付き合いながらヨガをしていくか、人間らしさを残しながらもサマーディを達成できるのか、というものでした。古代のヨギーたちのように社会から外れて山にこもり、スピリチュアルな勉強だけをしていればいいのかというとそうではなく、近代社会で私たちが日常生活を営みながら、バランスを取りながらも本来の自分を見つけていく、というのがタントラの教えです。
興味深いことに、身体を使ったヨガである「ハタ・ヨガ(タントラ・ヨガ)」の起源が仏教にあることも最近の研究で明らかになっています。そして、それは「ヤントラ・ヨガ」と呼ばれる動きを伴ったヨガとして、現代までチベット仏教で、ゾクチェンとともに伝承されています。
タントラヨガは、別名「タントリックヨガ」とも呼ばれ、クンダリーニ・シャクティの覚醒により、解脱を目指します。タントラヨガでの体の鍛練からハタヨガが生まれたとされています。
具体的には、静的なエネルギーを「男性原理」と位置づけ、動的なエネルギーを「女性原理」とします。この2つが結合すると、メンタルな面での幸せを味わえることになります。ハタヨガにも、女性原理であるシャクティと、男性原理であるシヴァを合一させるという考え方が取り入れられています。
人間の頭のてっぺんに「シヴァ神」がいて、肛門の近くの会陰部(えいんぶ)に女神であるシャクティ妃がいるとされます。ハタヨガでは、ポーズや呼吸法によって、眠っているシャクティ女神を刺激し、目覚めさせ、シヴァのいる頭頂部にまで上層させることで、シヴァとシャクティを結合させます。これによって、幸福を得ることができるとされています。
科学的研究により、ハタヨガの具体的な効果が数多く証明されています。12週間のハタヨガ実践により、心肺持久力(安静時心拍数と最大酸素摂取量)、筋力と筋持久力(腹筋と腕立て伏せテスト)、下背部とハムストリングの柔軟性が改善されることが確認されています。
さらに、8週間のハタヨガ実践は、血糖値、インスリン、脂質プロファイル、内皮微粒子(EMP)、健康な中国人女性の炎症状態に効果をもたらすことが研究で示されています。また、高齢者においては、ハタヨガ実践が課題切り替えとワーキングメモリ容量の実行機能測定に効果を示すことが研究で明らかになっています。
興味深いことに、ハタヨガは慢性腰痛患者において、セルフコンパッション瞑想と組み合わせることで、運動恐怖症と主観的ウェルビーイングの改善により効果的であることが判明しています。
ハタヨガの呼吸法は、タントラの教えに深く根ざしています。左右の鼻孔の状態も精神状態を表しており、左の鼻孔を通る道と、右の鼻孔を通る道を、それぞれ月と太陽に例えます。
左の鼻孔:月・副交感神経・女性・冷たさ・リラックス・右脳の働き
右の鼻孔:太陽・交感神経・男性・暖かさ・アクティブ・左脳の働き
左の鼻孔から入った息(または気、プラーナ)は、イダーと呼ばれる気道を通って体内に入ります。逆に、プラーナが右の鼻孔から入りピンガラ気道を満たすと、身体も心もアクティブな状態になります。
このシステムを活用した呼吸法には以下があります。
🌞 スーリヤ・ベーダナ・プラーナヤーマ(太陽の呼吸)
🌙 チャンドラ・ベーダナ・プラーナヤーマ(月の呼吸)
⚖️ ナディショーダナ・プラーナヤーマ
タントラヨガについては現代において多くの誤解があります。タントラヨガというと、パートナーヨガや性的なエネルギーを活性化させるヨガとして紹介されることが多いですが、これは本来の意味とは異なります。
本来のタントラヨガは、いかに人間らしさと付き合いながらヨガをしていくか、人間らしさを残しながらもサマーディを達成できるのかを探求するものです。例えばヨギーだから一切肉は食べません、ジャンクフードは食べません、セックスも一切しません!ではなく、では自分の体が欲しているものを適量食べましょう、このチップスは体には良くないから1枚だけ食べましょう、セックスは決まった相手とだけにしましょう、こういうことです。
人間誰でも欲、エゴがあり、それを全て無くしてしまうのではなく上手に自分のエゴとも付き合いながら、自分を高め本来の高貴な自分を探究する、それがタントラヨガのもともとの教えです。
タントラヨガの本質は内なる幸せに気づくための方法であり、多くのヨガ流派にも共通しています。一般的なヨガポーズや呼吸法を練習することもタントラヨガの実践になります。ハタヨガよりも瞑想の要素が強く、身体を動かしながら瞑想していきます。
従来のヨガとは、多元的実践で構成されており、ポーズ、呼吸技術、瞑想、マントラ、そして倫理から成り立っています。現代の私たちに必要なのは、これらの要素を統合的に理解し、日常生活の中で実践することなのです。