
ハタヨガの開祖ゴーラクシャ・ナータ(別名:ゴーラクナート、ゴーラクシャナータ)は、10~13世紀頃にインドで実在した聖者である。彼は密教徒(仏教徒)でありながらシヴァ派でもあり、仏教タントラと密教をシヴァ派に取り入れることでハタヨガを創始した。
「ハタ」は「太陽」を意味する「ハ」と「月」を意味する「タ」を合わせた言葉で、陰陽の対立するエネルギーを統合するヨガ流派として位置づけられている。ゴーラクシャ・ナータが著したとされる『ゴーラクシャ・シャタカ』は、現存するハタヨガ最古の教典とされ、密教の教義をたった100の詩に圧縮したハタヨガの根本教典である。
興味深いことに、ハタヨガは当初、アウトカーストや社会の底辺層に広まったため、長い間「外道ヨガ」として差別や蔑視を受けていた。しかし、その神秘的な体験と深遠な哲学は、時代を超えて現代まで伝承され続けている。
ゴーラクシャ・ナータのハタヨガにおいて、プラーナ(宇宙エネルギー)の制御は最も重要な要素である。プラーナは私たちの身体に72,000のナーディ(気道)を通って流れているとされ、特に重要なのがイダー、ピンガラー、スシュムナーという3つの主要なナーディである。
イダーは月のエネルギー(チャンドラ・ナーディ)を司り、リラックスした女性的で静寂な状態をもたらす。一方、ピンガラーは太陽のエネルギー(スーリヤ・ナーディ)を司り、アクティブで男性的、理論的な状態を生み出す。
真のハタヨガ実践者は、これら二つのナーディのバランスを完全に整えることで、中央のスシュムナーを目覚めさせる。スシュムナーにプラーナが流れることで、スピリチュアルな潜在能力が発揮され、神秘的な体験への扉が開かれるのである。
現代の解剖学的アプローチとは異なり、ゴーラクシャ・ナータのハタヨガでは、心の不純物(怒り、妬み、執着、トラウマなど)がナーディに汚れとして蓄積し、エネルギーの流れを妨げると考える。これらの浄化こそが、真の覚醒への第一歩なのである。
ゴーラクシャ・ナータの教えの核心は、会陰部に眠るクンダリニー(とぐろを巻いた蛇)の覚醒にある。クンダリニーは低次のシャクティ(創造エネルギー)であり、ハタヨガの実践によって目覚めさせ、背骨に沿って上昇させ、頭頂のサハスラーラ・チャクラにある「至高のシヴァ神」と合一させることを目的とする。
7つの主要チャクラ(ムーラーダーラ、スヴァーディシュターナ、マニプーラ、アナハタ、ヴィシュッダ、アージュニャー、サハスラーラ)は、それぞれ異なる能力と意識レベルを司っている。例えば、胸部のアナハタ・チャクラは慈悲と社会性を司り、この部分の滞りは他人への束縛や情緒的な混乱を生む可能性がある。
重要なのは、全てのチャクラをバランスよく活性化することである。一つのチャクラだけが過度に活性化されると、性格や行動のバランスが崩れてしまう。ゴーラクシャ・ナータの教えでは、段階的にチャクラを浄化し、最終的にサハスラーラでの至高の歓喜(サマーディ)に到達することを説いている。
ゴーラクシャ・ナータによって体系化されたハタヨガの実践は、4つの段階から構成されている:
1. アーサナ(体位法) - 身体を整え、エネルギーの流れを活性化する
2. プラーナーヤーマ(調気法) - 呼吸を通じて気の流れをコントロールする
3. ムドラー(印) - エネルギーを特定の部位に集中させる
4. ラージャヨガ(瞑想) - 深いサマーディへの到達
後の時代に編纂された『ハタヨガ・プラディーピカー』では、これらに加えてシャットカルマ(浄化法)とバンダ(締め付け)も重要視される。シャットカルマは内臓や神経系を浄化し、バンダはエネルギーを集中させる技法である。
興味深いことに、ゴーラクシャ・ナータの真のハタヨガは「幽体離脱して魂を神と一体とならしめる」ことを最終目標としており、現代のエクササイズ的なヨガとは根本的に異なる神秘的なアプローチを取っていた。
現代社会が物質的豊かさを追求し続ける中で行き詰まりを見せている今、ゴーラクシャ・ナータの教えには私たちが失ってしまった大切な価値観が隠されている。
近年の研究では、ハタヨガの実践が心肺機能、筋力、柔軟性に顕著な改善効果をもたらすことが科学的に証明されている。しかし、ゴーラクシャ・ナータの教えはそれを遥かに超えた次元の癒しを提供する。
🌟 エネルギー的観点からの癒し
🧘 スピリチュアルな成長
💫 現代への応用可能性
ゴーラクシャ・ナータが伝えた真のハタヨガは、単なる身体運動ではなく、人間の全存在を神聖なレベルまで押し上げる変容の科学なのである。現代の私たちがこの古代の叡智と向き合うとき、物質文明の限界を超えた新たな可能性が開かれていくであろう。