
パワーヨガは「アシュタンガヨガ」という呼吸法に重点を置いたヨガをベースとし、さまざまな流派のヨガの要素を混ぜ合わせて考案された、米国発祥のヨガです。一方、アシュタンガヨガは故シュリ・K・パタビジョイス師が体系化した伝統的なメソッドで、決まったポーズを順番通りに行う流派です。
最も大きな違いは、ポーズの順番と自由度にあります。アシュタンガヨガは決められたポーズの順番を必ず守って練習を行います。1つのアーサナを行ったらサマスティティヒ(タダーサナや山のポーズ)に戻ってくるのが基本で、右足でアーサナを行い、その次に左足を行ってまたサマスティティヒに戻る流れを繰り返します。
対してパワーヨガは、右足で1つのアーサナが完成したらそのアーサナがスタートポジションになって次のアーサナへと展開していきます。シークエンスは指導者が自由に考えることができ、アーサナをどのように組み合わせてもよく、つなぎの部分でも強度や難易度を変えることができます。
アシュタンガとはサンスクリット語で「8本の枝」を意味し、八支則と訳されます。これらは悟りに到達するまでの8つのステップを示したヨガ哲学の基盤です。
八支則は以下の8つの要素から構成されています。
これらの支則はお互いを支えあっており、呼吸を正確に行うためにはポーズの修得が必要であり、それができてはじめてヤマ、ニヤマを身につけることができるよう、すべてが繋がっています。
両方のヨガスタイルは高い運動量を特徴とし、優れたダイエット効果が期待できます。アシュタンガヨガは他のヨガに比べて運動量が多いため、エネルギー消費量も高く、ダイエットに最適です。呼吸に合わせてポーズを流れるように行うスタイルが特徴で、心拍数が上がりやすい有酸素運動としての要素を持っています。
インナーマッスル強化の面では、アシュタンガヨガのアーサナを継続すると、インナーマッスルが鍛えられ、美しい姿勢と引き締まった体型が手に入ります。特にお腹周りの筋肉を鍛える効果が高く、ウエストの引き締めにもつながります。
パワーヨガも同様に、ダイナミックなポーズや動きをたくさん取り入れているため運動量が多く、短期集中型でシェイプアップに重点を置いています。90年代に海外セレブリティが美容法として取り入れていることが報じられ、欧米を中心として一気にヨガブームを巻き起こしました。
研究では、8ヶ月間のアシュタンガベースのヨガプログラムが骨形成に小さな正の効果を示すことが報告されており、視覚障害者のバランス能力向上にも効果があることが実証されています。
パワーヨガの最大の特徴は、その柔軟性と創造性にあります。アシュタンガヨガをベースとしながらも、「動」と「静」のポーズを流れるように行い、体軸と骨盤矯正に重点を置く「アイアンガーヨガ」の要素も組み合わせています。
パワーヨガでは、レッスンの始まりと終わりにマントラを唱えることはなく、ポーズの順番も決められていません。これにより、初心者から上級者まで、それぞれのレベルに応じてクラス内容を調整することが可能になります。
現代のライフスタイルに合わせて開発されたパワーヨガは、忙しい現代人でも取り組みやすく、短時間で効率的に運動効果を得ることができるという利点があります。特に体力づくりやストレス解消を目的とする人々に人気が高く、フィットネス要素を重視する傾向があります。
アシュタンガヨガは「動く瞑想」とも呼ばれ、ポーズをとる順番や**ドリスティ(視点)**が決まっているため、集中するトレーニングにもなります。具体的には、各ポーズにおいて視点を一点に集中させる「ドリシティ」という技法が用いられ、集中力の向上に大きく貢献します。
呼吸(ウジャイ・プラナヤーマ)、ポーズ(アサナ)、目の位置(ドリスティ)の3つを同時に正しく行うことで、私たちの感覚とより奥深くにある意識をコントロールできるようになります。定期的、献身的な練習を行うことにより、心身の安定を得ることができるのです。
決まった動きを没頭して取り組むことで精神が研ぎ澄まされ集中力が上がり、また終了後は深いリラックス感を得られます。アシュタンガヨガを日々のルーティンとして取り入れることで、ストレス緩和や精神安定の効果が得られるため、考えごとが多い方や睡眠の質を改善したい方にとてもオススメです。
研究では、アシュタンガヨガの実践者が身体的、感情的、心理的、社会的、スピリチュアルな5つの次元でのウェルビーイングを向上させることが示されています。また、うつ病患者に対する3ヶ月間のアシュタンガヨガの実践が、精神病理学的症状や気分の改善に効果的であることも報告されています。