
ラージャヨガは「王のヨーガ」という意味を持ち、ヨーガの中でも最も高貴で中心的な実践とされています。この名称は、心が自分自身を統制する王のような存在であることに由来し、身体・心・魂すべてを統率する意味から「ヨガの王道」とも呼ばれています。
興味深いことに、「ラージャヨガ」という名前の歴史は比較的浅く、16世紀頃にハタヨガプラディーピカーという聖典の中で述べられた名称です。それ以前は、パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』(紀元前200年頃編纂)に記された古典的なヨガの体系を指していました。
パタンジャリは「ヨーガとは心の動きを止めることである(チッタ・ヴリッティ・ニローダハ)」と定義し、心の波を鎮めることで真の自己と出会うことができるという教えを体系化しました。この教えは、外的な物質世界に翻弄される思考から解放され、内なる真我(プルシャ)を見つけることを最終目的としています。
ラージャヨガの実践は、パタンジャリによって体系化された**八支則(アシュタンガ)**によって構成されています。これらの段階は以下のように展開されます:
外向きの実践(前半4段階)
内向きの実践(後半4段階)
最後の3段階(ダーラナ、ディヤーナ、サマーディ)はサンヤマと総称され、深い瞑想状態を表します。
多くの人がラージャヨガとハタヨガを対立するものと考えがちですが、実際には両者は密接に関連しています。ハタヨガプラディーピカーには「ハタヨガは、高遠なラージャ・ヨーガに登らんとするものにとって、素晴らしい階段に相当する」と記されています。
アプローチの違い
現代社会では、古代のように「ただ瞑想をしろ」と言われても集中が困難な人が増えているため、ハタヨガは身体や呼吸から心にアプローチする実用的な道として発展しました。しかし、両者の最終目標は同じく**サマーディ(三昧)**に到達し、あらゆる苦悩からの解脱を実現することです。
現代生活においてラージャヨガを実践することで得られる効果は多岐にわたります:
精神的効果
身体的・エネルギー的効果
特に、外的な物質世界の変化に一喜一憂せず、内なる安定した意識である**プルシャ(真我)**を体験することが、ラージャヨガの究極の目的です。これは、現代社会で多くの人が抱える「外部評価への依存」や「比較による苦悩」から根本的に解放される道を示しています。
一般的には知られていないラージャヨガの実践には、いくつかの特別な側面があります。実は、パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』では具体的なアーサナの名前は一つも記されておらず、現代でイメージされる様々なポーズはハタヨガで発展したものです。
秘伝的な実践要素
興味深い事実として、プロ野球選手の極限状態での集中力は、ラージャヨガのプラティヤーハーラ(制感)の現代的な実例とも言えます。大歓声の中でも内なる静寂を保ち、完全に集中できる状態は、まさに外界の感覚刺激を遮断した瞑想状態と同じメカニズムです。
また、現代の神経科学研究では、長期的な瞑想実践者の脳に構造的変化が見られることが判明しており、ラージャヨガの教えが科学的にも裏付けられつつあります。これは、古代の聖賢たちが体験的に理解していた心の仕組みが、現代科学によって客観的に証明されている例と言えるでしょう。
実践における注意点
瞑想の深い段階では、一時的に時空感覚が変化したり、通常とは異なる意識状態を経験することがありますが、これらは修行の過程で自然に起こる現象です。重要なのは、これらの体験に執着することなく、最終的な解脱の境地を目指し続けることです。