
ブラフマーは、ヒンドゥー教における最高神の一柱として位置づけられ、宇宙の創造神として崇拝されています。創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァとともに「トリムルティ(三神一体)」を形成し、宇宙のサイクルを保つ重要な役割を担っています。
ブラフマーの外見的特徴として、四つの顔と四本の腕を持つ姿で描かれることが一般的です。それぞれの顔は東西南北を見渡し、宇宙全体を見通す象徴とされています。手には以下の神聖な道具を携えています:
また、ブラフマーは蓮の花の上に座る姿で表現されることが多く、これは純粋性と創造力の象徴とされています。興味深いことに、現代インドでブラフマーを祀る寺院は非常に少なく、最も有名なのはラージャスターン州プシュカルの寺院のみです。
ヨガ哲学において極めて重要なのが、創造神ブラフマーと宇宙の根本原理ブラフマンの関係性です。ブラフマーは「宇宙の根本原理・ブラフマン(梵)を神格化したもの」と考えられており、この理解がヨガ修行の深い理解に繋がります。
ヨガ哲学では、個の根源であるアートマンと宇宙全体の根源であるブラフマンが一体であるとされています。この概念は「梵我一如」として知られ、ヨガの最終目標である「ブラフマンとの融合」の理論的基盤となっています。
具体的には。
この三つの概念が相互に関連し合い、ヨガ修行者が目指す**自我を超えた静けさの状態(サマディー)**へと導いています。
ブラフマーは単なる物質的創造者ではなく、「言葉によって世界を創る」言霊の神としても重要な意味を持ちます。この概念は、ヨガ修行におけるマントラ(真言)の力と深く関連しています。
古代インドの思想では、「言葉を通じて世界は創られた」と考えられており、ブラフマーの創造は言葉(ヴァーチ)の力によって始まったとされます。具体的には:
この理解は、現代のヨガ実践におけるチャンティング(詠唱)や瞑想中のマントラの重要性を説明しています。ヨガ修行者がオーム(AUM)を唱える時、それは創造神ブラフマーの創造力と繋がる行為として捉えることができます。
また、サンスクリット語の神聖性もブラフマーの言葉の力と関連しており、ヨガの経典がサンスクリット語で記述されている理由の一つでもあります。
ブラフマーの神話には、ヨガ修行者にとって重要な教訓が含まれています。特に集中力(ダーラナー)とエネルギーの正しい使用について学ぶことができます。
興味深い神話として、ブラフマーが創造した美しい女神サタルーパに執着し、彼女を追いかけるあまり五つ目の顔を生やしたというエピソードがあります。これに怒ったシヴァが五番目の頭を切り落とし、「もうお前は祀られるに値しない」と呪ったため、ブラフマーの信仰が薄れていったとされています。
この神話から、ヨガ修行者は以下の教訓を得ることができます。
また、この神話は**ブラフマチャリア(禁欲)**の教えとも深く関連しています。現代的解釈では、ブラフマチャリアは「無駄なエネルギーを消費しない」ことを意味し、「向けるべきところにエネルギーを使う」実践として理解されています。
あまり知られていない興味深い事実として、ブラフマーは創造の後に深い瞑想状態に入ったという記述があります。バーガヴァタ・プラーナによると、ブラフマーは宇宙創造の混乱の中で「修行者となって瞑想にはいる」ことで、自分の心の中にいるヴィシュヌの存在に気づき、世界を創造する力を取り戻したとされています。
この神話は、現代のヨガ修行者にとって極めて実践的な意味を持ちます。
瞑想の効果。
実践的応用。
この視点から、ブラフマーは単なる創造神ではなく、瞑想の実践者のロールモデルとして捉えることができます。創造神でさえ瞑想によって力を取り戻すという事実は、私たち人間にとって瞑想がいかに重要かを物語っています。
現代のヨガクラスでの**シャバアーサナ(屍のポーズ)**も、このブラフマーの瞑想と同様の効果を目指しており、「自分と世界の境目が消えて宇宙と一体になる感覚」は、まさに「ブラフマンとの融合」体験として理解できます。